【民法改正】 債権法大改正は何が変わったか

 

さて、4月から改正民法が施行です。

一体、何がどう変わるのか?


とりあえず、大事なとこだけ分かりやすく知りたいという方、けっこういるかなと思ったので、試験に出そうなとことか、実務に影響ありそうなとこを中心に絞って紹介していきます。

 

債権法改正などと言ってますが、総則も変わりますし、資格試験との関係では総則の方が大事なのではと思ったり。

 

でもぜんぶまとめるのは大変なので、とりあえず、「債権総論」に当たる部分です

(深入りしないんですけど、主に、金融関係。不動産なら賃貸業はわりと影響あり。投資関係とか交通事故とかでも法定利率くらいはチェックした方がよいです)

 

けっこうなボリュームになってますが、部分的につまみ食いで十分な気も…。というわけで、最低限の知識だけでもどうぞ。

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債権総論

 

■ 債権の目的


1.文言追加
400条です。善管注意義務の内容程度は、取引におけるさまざまな事情できまります。そのことをあきらかにするため文言を追加しています。

追加:契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる


2.選択債権特定の要件

新:数個の給付の中に不能のものがある場合、選択権者の過失による時に限り、債権の目的となる。

「当事者の過失がなく、給付が不能になった場合」の取扱いが変わりました。


■ 債務不履行

1.原始的履行不能の場合

債務の履行が不能であるときは、履行請求できないとされていた


大判大正2年5月12日では、債務の履行が物理的に不可能な場合のみならず、取引通念において履行が期待できないような場合にまで拡げてかんがえています。

これを新設しました。

さらに

旧:なし
新:契約成立時に債務の履行が不能であったことは、損害賠償することを妨げない(損賠請求できる)

最判昭25.10.26)では、傍論ではありますが、原始的不能の場合、債務不履行に基づく損害賠償請求ができないという判断を示していました。


2.債権者の受領遅滞効果

受領遅滞の場合の以下効果を明文化しています。
債権者に帰責事由がない場合にも以下の効果が発生するかは、一応解釈なのですが、判例としては発生する立場と考えられているようです。


・ 特定物の引渡しについて、受領遅滞の後は自己の財産と同一の注意義務で足りる。
・ 増加した費用は、受け取るべき債権者の負担となる
・ 受領遅滞の後、いずれの過失でもなく履行不能となってしまった場合、債権者の帰責事由となる。

 

3.損害賠償請求

債務不履行による損害賠償)
旧: 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

新: 第415条①債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(▼追加)②前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一債務の履行が不能であるとき。
二債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。


旧法では、履行不能意外の債務不履行について規定がなかったのですが、(最判昭61.1.23)でも同様に履行不能にかかわらず、債務者に帰責事由がない場合は損害賠償を負わないとしていたため規定を新設。この場合、債権者が、「帰責事由がないですよ」と立証する必要があります。

 

また、帰責性の有無についてどう判断するかについても、取引通念にしたがって諸事情を考慮すべきなのでそのことを追加してます。

 

それから、債務の履行に代わる損害賠償請求できることを新設してます

そして、賠償の範囲がどこまで拡がるのかというところですが、当事者が「予見するべきだった」といえる事情を含めるように明確化しています。

たとえば、転売ヤーですが、不動産販売で仕入れの時に、すでに違約金をつけて転売契約を結んでいるような場合、違約金について賠償に含まれるとするとさすがに妥当ではないです。

これを「予見していた」という主観的な基準にすると、告げることで賠償範囲に含まれてしまいますので、「予見すべきであった」という客観的に評価できる事情に限定していくことになります。


4.損害賠償額の予定

損害賠償額を予定していた場合、裁判所は増減できないことになっていましたが、裁判実務では公序良俗違反で増減判断をしていたため、削除されました。


■ 法定利率

大切なところなので、すこし踏み込んでいきます。

旧:年5%
新:年3%(3年ごと見直す)


法定利率は金利とバランスがとれていないと合法的に法外な金額を請求できることになり得ます。

近時だと、市中金利は低いので、法定利率が金利を上回っています。この場合、遅延損害金は高額となり、中間利息控除により、損害賠償請求不当に低い額となります。

 

複利はおそろしいという話は有名ですが
これは利息がおそろしいほど膨れ上がるということで

もちろんその逆もしかりで、おそろしいほど膨れ上がるということはおそろしいほど減るパターンがあるということです。

それが、中間利息の控除でして

時間がかかるものほど減額が大きいということです。

裁判では損害賠償額を計算するのに、「逸失利益」というものを考えます。
これは、もし、定年まで生きて働いていたらだいたいいくら稼げたかを平均年収をもとに概算します。

ここからが問題なんですが、定年まで時間をかけて私たちは稼ぎ、蓄積される金額です。

これを賠償金として「今」受け取ることになると、本来なら長い時間をかけて受け取れるはずの大金をすぐに得られることになるため(現在価値)、それだけの時間がかからない分、価値が高い金額と考えられます。

つまり、定年まで残り10年で、3,000万稼げたとしても、10年分の時間コストを3000万から引かなければならないのです。(割引

いくら引くのか?というと、その時間をお金に換えたもので「利息」です。この利息が法定利率をもとに計算されることになるのでこの利率が高いとそれだけ引くものも増えて、受け取れる賠償金が少なくなるということです。

 

時間に応じて発生した分を利息に相当する金額として控除しようと考えるこの「中間利息控除」というものは、わたしたちが若ければ若いほど、おそろしいほどに減額されていくのです。

たとえば、(最判平17.6.14

こちらは、9歳で死亡したこどもの逸失利益についての判例ですが

年齢が低いために長期間となり、その分、賠償請求できる金額の「割引き」も大きくなることになります。

遅延損害金のような賠償であれば比較的短時間で済みますが、人間が亡くなった場合は期間が長くなりがちです。

法定利率は、ふだんこそあまり意識しないものかもしれないのですが、とてもセンシティブな時に問題をはらんでおり、とても大切なことです。
たしかに、これまでの固定5%よりは引き下げられ、見直しもあり改善はされましたが、引き続き課題としては残っていると思われます。

■ 債権者代位権

1.要件の明確化

・自己の債権を保全するため(明確化)

・差押禁止債権は、代位行使できない(明確化)

強制執行で実現できない債権は代位行使できない(明確化)

・裁判上の代位を廃止(廃止)

2.債権者代位権の行使方法

・代位行使できる範囲を自己の債権の額の限度として明確化
最判昭44.6.24)

・金銭・動産の引渡しを債務者ではなく、直接自分に引渡すよう請求できる
(大判昭10.3.12)

・相手方は、債務者に対して主張できる抗弁をもって債権者に対抗できる
(大判昭11.3.23)

3.債務者の権限

債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ相手方も債務者に対して履行することが妨げられない。

→ (大判昭14.5.16)では、債権者が代位行使に着手してしまうと、債務者は止められなかったのですが、結局、債権者は財産保全ができれば良いわけです。債務者が処分することを妨げてしまうのは過剰な財産権侵害と考えられ新設されています。

4.債務者への訴訟告知(おまけ)

債権者代位訴訟を提起した場合、判決の効力は債務者にも及ぶのですが、債務者は訴えがあることを知らないこともあり、手続き保障が十分ではなかったので、債務者に対して「訴訟告知」という裁判を知らせる手続きをすることを債権者に義務付けています。


5.登記請求権保全のための債権者代位権(おまけ)

債権者代位権というのは、本来、債権者が無一文になってしまう債務者の財産を守るための制度でしたので、不動産登記を保全するために債権者代位権を行使することは「債権者代位権の転用」と言い、(講学上)区別されていました。

そこで、一般の債権者代位権と区別して規定しています。


■ 詐害行為取消権


1.詐害行為取消権の要件について

旧:第424条① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。
新:第424条① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。

法律行為に当たらない弁済なども取消すことができる(最判昭33.9.26
としていた為、明確化されました。

 

また、被保全債権は、詐害行為の前に発生していることが必要(最判昭33.2.21)としていたのですが、さらに進めており

旧:なし
新:被保全債権が発生してなくても原因が発生していればいい

 


2.詐害行為取消権の行使方法

行使方法についても運用は変わりませんが判例を踏まえて細かく明文化されました。

・取消しの対象となる行為を取消すだけでなく、移転した財産を債務者に返還することを請求できることについて明文化されました。(大判明44.3.24)
取消しの対象となる行為の目的が金銭などで、分割できるような債権なら、行使できるのは保全する債権額の限度とされます。(大判明36.12.7)
取消し対象金銭・動産である時は、直接、自己に引渡しを求められることを明文化。(大判大10.6.18)

 

また、詐害行為取消権を行使する場合、財産の流れとしては債務者を経由しますので、被告適格は受益者とした上で、債務者にも「訴訟告知」により裁判手続きに参加するようにしています。

旧:被告は受益者とすべきである。確定判決の効力は債務者に及ばない。(大判明44.3.24)
新:被告は受益者とした上で、確定判決の効力は債務者に及ぶ
したがって、訴えを提起したときは、債務者に、訴訟告知しなければならない。

 

旧:受益者が善意で詐害行為取消請求できない場合でも悪意の転得者には請求できる。(最判昭49.12.12)
新:受益者が善意でなく、受益者に対して詐害行為取消請求することができる場合、転得者に請求できる

受益者が善意 ⇒ 請求×
受益者が悪意 ⇒ 請求〇

 

3.受益者の反対給付の返還請求

詐害行為取消権は、債務者と受益者との行為を取消しますので、受益者も何か給付をしていた場合には、債務者にこれを返還してもらえます。

旧:受益者は、取消しとなった行為の反対給付を請求できない
新:受益者は、反対給付の返還(価額の償還)を請求できる


・期間の制限

主観的制限期間の起算点を明確化しました。

「債務者が詐害行為したことを債権者が知った時」から2年


客観的制限期間の権利行使の期間が短くなりました。

旧:詐害行為の時から20年経過で消滅する消滅時効
新:詐害行為の時から10年経過したとき提起できなくなる出訴期間

■ 多数当事者の債権債務

1.債務の分類


分割債務:可分で、法令の規定がなく、各債務者に分割     連帯債務:可分で、法令の規定により、各債務者が全額責任を負う不可分債務:当事者の意思により、又は性質上、不可分である (分割債務・連帯債務は変化なし、旧法維持)
旧:不可分債務は、当事者の意思により、又は性質上、不可分であるもの
新:不可分債務は、性質上、不可分であるもの

2.債権の分類

分割債権:性質上可分で、法令の規定がなく、各債権者に分割されるもの                           不可分債権:当事者の意思または性質上可分であるが、当事者意思によって不可分とされたものなど
新:不可分債権は、性質上不可分であるもの
新設:連帯債権は、性質上可分で、各債権者が全部の履行を請求できるもの(連帯債権を新設して、分割債権は変化なし)

 

3.連帯債務


(1)履行の請求

旧:連帯債務者のひとりに対する履行の請求を絶対的効力事由として、他の債務者にも効力が生じるとしていた。(遅滞になる)
新:廃止


(2)相殺

旧:連帯債務者のひとりが持っている相殺を援用しない間は、その負担部分についてのみ、ほかの連帯債務者が援用できるとしていた。
新:援用は認めない。かわりにその負担部分について履行を拒めるとした


(3)債務の免除

旧:連帯債務者のひとりに対する免除をしたら、その負担部分について、ほかの連帯債務者についても義務を免れるとしていた。
新:廃止


(4)時効の完成

旧:連帯債務者のひとりに対する時効が完成したら、その負担部分について他の連帯債務者も義務を免れるとしていた。
新:廃止

■ 保証

1.保証の内容(若干、強化されました)

旧:第457条①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。②保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
新:第457条①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。②保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。

 

2.保証人に対する「情報提供義務」新設

→ 事業のために融資を受けるなどの場合は多額になりますので、保証人の負担も過大です。

そこで、主債務者に自身の財産状況を、把握させるために情報提供を義務付けました。

・財産、収支の状況
・他に負担している債務があるかどうか、返済状況はどうか
・担保として提供しようとするものが何か

 

こういった情報について、債権者は、保証人の請求があったときは情報提供しなければなりません。


この情報提供義務を怠っていた場合、保証人は保証契約を取消すことができます。

 

3.期限の利益

主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者は2か月以内に保証人に通知(ちゃんと到達するまで)しなければ遅延損害金を請求できなくなります。


4.個人根保証契約

個人根保証契約は、書面で極度額(上限)を定めなければ効力を生じないとしています。


5.公証人による「保証意思確認手続き」の新設

→ 事業のために負担する保証契約の場合、公証人による保証意思宣明公正証書が必要です。

公的機関で作成される公正証書によって保証意思を確認しなければならないことになりました。

 

■ 債権譲渡


1.異議をとどめない承諾制度の廃止

異議をとどめない承諾の制度を廃止し、抗弁を放棄することについて債務者の意思を確認する必要があります。

債務者が異議をとどめない債権譲渡の承諾をした場合、譲渡人に対抗できたことがあっても、それを譲受人に対抗できませんでした。

取引安全のためではありましたが、単に譲渡があったことを認識しただけでも抗弁が対抗できなくなる強力な制度でしたので、債務者意思で放棄した場合に限るのが妥当だろうという事になり、廃止されました。

 

2.債権譲渡における相殺

債権が譲渡された後であっても、相殺ができましたが、譲渡通知の時点で債権が発生している必要があるのか、弁済期の到来が必要なのかなど不明確な状態でした。


譲渡について債務者への対抗要件が具備される前に債務者が取得した債権であれば相殺することができ弁済期も問わないとされました。

そして、譲受人が債務者対抗要件を具備した時点よりも後に債務者が取得した債権についても

対抗要件具備より前の原因に基づいて発生
・譲渡された債権の発生原因となる契約に基づいて発生

このいずれかであれば相殺ができることになります。

 

■弁済

1.弁済の効果

三者の範囲を利害関係を有しない第三者から、弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者に明確化されました。

旧:(第三者の弁済)
第474条① (略)
② 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

新:
第474条① (略)
②弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。


2.債権の準占有者に対する弁済

旧:第478条 債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
新:第478条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する

なお、受取証書の持参人に対する弁済(480条)については不要となったので削除されました。

3.代物弁済

旧:第482条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
新:第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する

最判昭60.12.20, 最判昭57.6.4)代物弁済の合意があれば、所有権移転の効力が生じるとされていました。
代物弁済の法的性質は諾成契約です。


■ 相殺

1.相殺制限特約

相殺を制限する特約については、第三者が特約について悪意・重過失である場合、対抗できます。

2.相殺禁止の範囲

不法行為に基づく損害賠償請求権一般を受働債権とする相殺を禁止していましたが、


・ 悪意による不法行為
・ 生命・身体の侵害

これらに基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺を禁止しており、これらを譲り受けた場合は禁止されないとしています。

3.差押えを受けた債権での相殺 

判例最判昭45.6.24)によると、自己の有する債権が、差押え前に取得したものである限り、第三債務者は弁済期を問わず、相殺を対抗できるとされてました。

これは無制限説という立場で、実務でも確立されていたため明文化。

さらに、差押え後に取得した債権であっても、その債権が発生する原因(契約等)が差押え前であれば相殺を対抗できることも明文化されました。

ただし、この債権が譲渡されるなどした場合の第三債務者は相殺を対抗できません。

▼ 法学のせかい

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